「仏壇 あこがれ」は最高級の素材・技法・職人で仕上げ、伝統的工芸品 彦根仏壇に認定された、上置き型のモダン仏壇です。
伝統的工芸品として認定される最高級の品質であること、幅・高さ・奥行きの寸法、そしてチョコレート色の色漆を使うことを、依頼時に条件として指定されていました。また伝統的工芸品でありながら黒く重い雰囲気の仏壇ではなく、明るく優しい雰囲気を持ち、既存の客筋ではないところの可能性を探りたい、という要望も添えられました。
これらの条件を踏まえて「扉を閉めた状態でどこまでシンプルに優しい雰囲気にできるか」ということを、デザインをする上での大きなテーマとしています。
この「あこがれ」は扉を閉めると手掛かりや取っ手などの金具が表に一切現れません。四方の枠に収まった戸板だけのシンプルなかたちです。扉を開く場合は、両脇の枠である側板を左右に押し広げます。扉を広げた状態では戸板は折りたたまれ、三方開きという仏壇の中段・下段が表に出るかたちです。さらに、側板を元に位置に畳むことができ、観音開きでありながらコンパクトな幅でお祀りすることもできるようにしています。
また仕上げは、指定通りチョコレート色の色漆で最高級の呂色仕上げ(=鏡面仕上げ)です。水面のような光沢で、硬く強い印象を持ちます。全てをこの呂色で仕上げると、扉を閉めた際の印象が強すぎると感じたので、戸板は同じ漆でも柔らかい印象を作っています。栓の無垢板をゆるやかな曲面に削り、斜めの凹線を彫り入れ、まるでキルティングのような柔らかい雰囲気を考案しました。それを白漆で摺り上げて、本体の呂色との質感のコントラストを生み出しています。
膳引のある抽斗となっている下段は、透明感のある弁柄溜め塗りで軽さを出し、そこに抽象化した菊花の本金粉磨き蒔絵、露を表す螺鈿を施し、菊露を表しています。菊露は、節句の重陽で行われる儀式のひとつで、不老長寿の願いが込められています。
経済産業大臣指定 伝統的工芸品「彦根仏壇」は、製造方法や技術や仕様など厳しい審査を経て、初めて認定されます。さらに、この『あこがれ』は第25回 全国伝統的工芸品仏壇仏具展に出展し、「近畿経済産業局長賞」を受賞しました。