彦根は井伊家のお膝元として栄え、多様な伝統工芸の職人が残っている工芸の町です。現在は国指定の伝統的工芸品「彦根仏壇」が有名ですが、仏壇の製造も木地、漆工、彫刻、彫金、宮殿、箔押し、蒔絵の七職の職人が揃って初めて可能となります。その多様な職人も、元をたどれば甲冑製造の職人だったと伝わっています。
その甲冑を、昔の製法をできるだけ踏襲し、彦根で活動する職人をまとめて現在に復活させるプロジェクトが、この「伝匠彦根甲冑」です。井伊家の甲冑の中でも名品とされる井伊直孝公の所用と伝えられる赤い甲冑を、彦根の職人たちが可能な限り忠実に再現しました。漆塗り本来の輝きを持つ甲冑を作っているのは、現在は全国でも彦根だけです。
そのブランディング・デザインを当事務所が担いました。
甲冑に切る銘は刻印だそうです。将来商品に付ける可能性も考慮し、篆書体を元にした印章をロゴとして使うことを提案しました。甲冑やその写真とともに使う極印として、奇をてらわない至極真っ当で、トップブランドとして誇り持つにふさわしいものとなるよう願っています。
カタログは、表を井伊家の赤備えにちなんで赤で覆い、内側は漆の光沢が映えるように黒を敷きました。質感を伝えるために、写真を可能な限り大きく掲載することを考え、厳選した3枚のみで主な紙面を構成しています。
甲冑は数々の技巧を凝らされており、日本の工芸の中でも頂のひとつでしょう。その工芸の確かな質感と、彦根に伝わる匠の方々の誇りを伝えることができていれば幸いです。